オイルシール

要因 故障モード 原因 対策
要因 故障モード 原因 対策
リップ部過大摩耗 潤滑不足 リップ先端部の摩耗が大きく、摩耗面は光沢がなくあれている
潤滑不足
潤滑油が指定量以下で使用されリップ部まで油が回らず、乾燥状態でしゅう動したため、異常摩耗した。 潤滑油を指定量まで補給し、運転する。
  • オイルシール近傍の構造が悪く、リップ部まで油が回らなかった。

    (例)

    • リップ部の前にスリンガがある。
    • リップ部の前に大きなドレーンがある。

  • 飛沫潤滑のため、始動時から数分間リップ部に油が全く回らなかった。
  • 応急処置としては、ダブルリップタイプに変更し、リップ間にグリースを塗布し使用する。
  • 恒久対策としては、オイルシール近傍の構造を変更し、油がリップ部まで回るようにする。
異物かみ込み リップ先端部の摩耗が大きく、“すじ”や“へこみ”がある。
異物かみ込み

次のような異物が付着した軸やオイルシールを使用したため、異物がリップにかみ込まれた。

異物例:切削くず、ちり(塵)、ほこり、液状ガスケット、塗料など

異物かみ込み
  • オイルシールや軸に切削くずやちり(塵)などがつかないように組立てを行う。
  • 機器を洗浄する場合は、使用する潤滑油で行う。
内圧大 リップ先端部の摩耗が大きく、“へこみ”がある。
内圧大
オイルシール部の圧力が設計値以上であった。
  • 耐圧オイルシールに変更する。
  • ブリーザを設け圧力がかからない構造にする。
軸表面粗さ過大 リップ先端部の摩耗が大きく、摩耗面に円周方向の “すじ” がついている。 指定の表面粗さRz0.8〜2.5μmより粗い軸を使用したため、異常摩耗した。
  • 軸表面に粗さをRz0.8〜2.5μmに、エメリーペーパー(#240程度)で修正する。エメリーペーパーを軸方向に絶対に動かさないでください。
  • 指定粗さの軸と交換する。
リップ部偏摩耗 取付け偏心大 リップしゅう動幅が円周上均一でなく、最小幅と最大幅の位置が、ほぼ対称位置にある。
取付け偏心大
軸とハウジングの中心がずれた状態で取り付けられて運転された。 軸とハウジングとの同心度の精度を上げる。
軸が一方向にたわんだ状態で運転された。 軸の“たわみ”に対する強度を上げる。
傾斜取付け リップしゅう動幅が円周上均一でなく、最小幅と最大幅の位置が、ほぼ対称位置にある。
また、シールリップ部とダストリップ部のしゅう動幅の大小関係が、逆になっている。
傾斜取付け
ハウジング内径寸法が指定より小さく仕上がっているものに、無理にオイルシールを打ち込んだため、オイルシールが傾斜して取り付けられた。 指定寸法のハウジング内径寸法にする。
ハウジングの面取りが施されていないか、適正でなく、無理にオイルシールを打ち込んだため、オイルシールが傾斜して取り付けられた。 ハウジングの面取りを施すか、適正寸法にする。
カタログ36~43ページご参照ください。
組込み治具が傾斜していたため、傾斜して取り付けられた。 組込み治具を改良する。
カタログ46~47ページご参照ください。
リップ部硬化 異常高温 リップしゅう動部がなめらかで、光沢があり、リップ全体が硬化し、亀裂が発生している。
傾斜取付け
リップ部近傍の油温が何らかの原因で上昇し、ゴムの耐熱限界を超えた。 原因調査の上、温度上昇を防ぐ。
設計時の想定温度より、条件の相違などにより油温が上昇し、耐熱限界を超えた。

耐熱性の良いリップ材料のオイルシールに変更する。
リップ材料の変更は、シール対象物との相性にも留意が必要です。

(例)

  • ニトリルゴム(NBR)
    →アクリルゴム(ACM)
  • アクリルゴム(ACM)
    →ふっ素ゴム(FKM)
内圧大 リップしゅう動幅が広く、光沢があり、亀裂が発生している。 圧力がオイルシールの耐圧限界を超えた。
  • 耐圧オイルシールに変更する。
  • ブリーザを設け、圧力がかからない構造にする。
潤滑不足 リップしゅう動部が滑らかで、光沢があり、亀裂が発生しているか、または指で押すと亀裂が発生する。なお、硬化はしゅう動面のみになる場合が多い。 潤滑油が指定量以下で使用され、リップ部への油のかかりが少なく、潤滑不足になっていた。 潤滑油を指定量まで入れ、運転する。
飛沫潤滑で、リップ部への油のかかりが少なく、潤滑不足になっていた。
  • 応急処置としては、ダストリップタイプに変更し、リップ間にグリースを塗布する。
  • 恒久対策としては、オイルシール近傍の構造を変更し、油がリップ部に十分にかかるようにする。
リップ部軟化 リップ材料不適正 リップ部がふくらみ、軟らかくなっている。 潤滑油に対し、リップ材料の選定を誤ったため、リップ部が膨潤した。 潤滑油に対し、膨潤しないリップ材料のオイルシールに変更する。
または、リップ材料を膨潤させない油に変更する。
洗油やガソリンに浸漬したり、洗浄液が付着したまま放置したため、膨潤した。 オイルシールは洗浄しない。
リップ部きず 組込み不良 リップ先端部に目で見える“きず”がついている。 オイルシールがキー溝やスプライン上を通る時、鋭角部と接触して“きず”がついた。 装着時にキー溝やスプラインにキャップなどをかぶせ、“きず”をつけないようにする。
軸の面取り部に“ばり”や“かえり” がついたままオイルシールを装着したため、“きず”がついた。 “ばり”や“かえり”を除去する。
取扱い不良 オイルシール運搬中、または保管中に鋭利な金属部品にリップ部を当てたため、“きず”がついた。 運搬、保管方法の改善をはかる。
切削粉の付いた手袋でオイルシールを取り扱ったため、“きず”がついた。 リップ部にさわらない。
軸面取り不良 軸端の面取り寸法、および角度が適正でないため、リップ部が軸端にひっかかり 、“きず” がついた。 軸の面取りを適正にする。
カタログ30~31ページご参照ください。
異物かみ込み
  • リップ先端部に、異物が付着している。
  • リップしゅう動部に、“くぼみ”がついている。
  • 切削粉の付着した軸を使用したため、切削粉がリップ部にかみ込んだ。
  • 金属粉の付着した部品を使用したため、金属粉がリップ部にかみ込んだ。
  • ダストの激しい場所に長期間放置した軸やオイルシールを使用したため、異物がリップ部にかみ込んだ。
使用する潤滑油で機器を洗浄する。
リップ部反転 軸面取り不良 オイルシールを軸に挿入する方向に対し、逆方向にリップ部の一部が反転している。 軸端の面取り寸法、および角度が適正でないため、リップ部が軸の端に引っかかり、反転した。 軸の面取り寸法、および角度を適正にし、面取り部にグリースを塗布し組み立てる。
組込み不良 軸とハウジングの心を出さず、乱雑に組み立てたため、リップ部が反転した。 軸とハウジング穴の心を出し、注意して組み立てる。この場合も、軸端にグリーズを塗布する。
内圧過大 リップ部の円周上の一部、または全体が外部に反転している。
内圧過大
稼働中、異常な高圧が発生したため、リップ部に異常な力が作用し、反転した。
  • 過大な圧力がかからない構造に改良する。
  • 耐圧オイルシールを使用する。
リップ腰部破損 組込み不良 リップ腰部に亀裂が入っている。
組込み不良
組込み時に、リップ部が押しつぶされて、腰部に亀裂が生じた。 軸とハウジング穴の心を出し、注意して組み立てる。
内圧過大 組立て後の気密テストなどの時に、過大な圧力がかかり、腰部に亀裂が生じた オイルシールの耐圧以上の圧力での検査はしない。
運転中に、設計時の予想以上の高い圧力が発生し、腰部に亀裂が生じた。
  • 過大な圧力がかからない構造に改良する。
  • 耐圧オイルシールを使用する。
ばね脱落 軸面取り不良 部分的、または全体的に“ばね”がはずれている。 軸端の面取り寸法、および角度が不適正のため、リップ部が軸端に引っかかり“ばね”が脱落した。 軸の面取り寸法、および角度を適正にし、面取り部にグリースを塗布し組み立てる。
組込み不良 組込み時、軸とハウジング穴との心出しをせず、乱雑に組み立てたため“ばね”が脱落した。 軸とハウジング穴の心を出し、注意して組み立てる。この場合も軸端にグリースを塗布する。
オイルシールの変形 組込み不良 オイルシールが変形し、変形部でリップしゅう動幅が変化している
組込み不良
オイルシール組込み治具が適正でないため、オイルシールを変形させた。 組込み治具を改良する。
オイルシールに異常なし 軸のきず・巣 軸のしゅう動部に、目で見える“きず”、“巣”があった。
  • オイルシールにシムをかませて、しゅう動位置をずらす。
  • “きず”を修正加工する。
軸の方向性 旋盤加工のままの軸を使用した。 軸のリップしゅう動部のみ、エメリーペーパー(#240)で送りをかけずに修正する。
軸の仕上加工時、グラインダ、エメリーペーパーに送りをかけた。 軸方向に送りをかけない仕上げ方法に変更する。
軸偏心 ベアリングの異常により、軸偏心が設計値より大きくなった。 ベアリングを交換する。
機構上軸偏心が大きいのに、汎用オイルシールを使用した。 耐偏心用の特殊オイルシールに交換する。
軸摩耗
  • ダスト、切削粉が付着したオイルシールを装着した。
  • 潤滑油が劣化、または異物が混入した。
  • 機器を洗浄し、組立て時オイルシールにシムをはめて、しゅう動部の位置をずらす。
  • 新しい潤滑油に入れ替える。
外部から異物が侵入して、リップ部にかみ込んだ。 ダスト量が軽微な場合は、オイルシールをダストリップ付きにするか、ダストカバーを付ける。
軸に非鉄金属を使用した。 適正な軸材料を使用する。
取付方向反対 組込み時に誤装着した。 リップ部の向きを、密封対象側にして装着する。