往復動用シール/リップパッキン
解説編
リップパッキンの種類
下表に油圧シリンダ用パッキンの種類と特徴を示します。
油圧シリンダ用パッキン(ピストンシール専用)
形状分類 | パッキン 断面形状 | 材料 | 特徴 | |
---|---|---|---|---|
U | ウレタンゴム ニトリルゴム ふっ素ゴム | ピストンシール専用パッキン。ウレタンゴムのパッキンは耐磨耗性に優れている。リップ上面に切り欠きを設定した場合、リリーフ性能が向上し、蓄圧現象は発生しない。 | 非対称Uパッキン。低温用は耐寒ニトリルパッキンを使用する。断面が小型のパッキンは一体溝に装着可能である。 | |
S | PTFE +(組立) ニトリルゴム | 充てん剤入りの四ふっ化エチレン樹脂とゴムリングを組合せたパッキン。 | しゅう動面が自己潤滑性のある材料のため、しゅう動抵抗は低く、スティックスリップの発生は少ない。一体溝装着可能である。 | |
PTFE +(組立) ニトリルゴム +(組立)ポリアミド樹脂 | 充てん剤入りの四ふっ化エチレン樹脂とポリアミド樹脂およびゴムリングを組合せたパッキン。 | 耐圧性を向上させた一体溝に装着可能なピストンパッキン。 | ||
L | ウレタンゴム ニトリルゴム | 低圧用ピストンパッキン | パッキン材にウレタンゴムを使用しているので、耐磨耗性に優れている。 | |
油圧のほか、空気圧用にも使用可能である。 |
油圧シリンダ用パッキン(ロッドシール専用)
形状分類 | パッキン 断面形状 | 材料 | 特徴 | |
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L | ウウレタンゴム ニトリムゴム ふっ素ゴム | ロッドシール専用パッキン。ウレタンゴムのパッキンは耐磨耗性に優れている。 | 密封性、耐久性に優れている。断面が小型のパッキンは一体溝に装着可能である。 |
油圧シリンダ用パッキン(ピストン・ロッドシール両用)
形状 分類 | パッキン 断面形状 | 材料 | 特徴 | |
---|---|---|---|---|
U | ウレタンゴム | ピストンシール、ロッドシール両方に使用可能である。専用パッキンに比べ、耐圧性が若干劣る。 | パッキン材にウレタンゴムを使用しているので、耐磨耗性大、断面が小型のパッキンは一体溝に装着可能である。 | |
ニトリルゴム | ||||
耐寒ニトリムゴム | パッキン材にニトリルゴム、耐寒用にニトリルゴムおよびふっ素ゴムを使用しているので、広範囲の温度領域あるいはリン酸エステル系作動油に使用することができる。断面が小型のパッキンは一体溝に装着可能である。 | |||
ふっ素ゴム | ||||
V | 布入りニトリルゴム | 使用圧力に応じ、数枚のパッキンを重ねて使用することにより、過酷な条件のところでも使用できる。ただし、Uパッキンに比べ密封性能が劣る等の欠点がある。 | JIS B 2403相当品で、パッキン材料に布入りニトリルゴムを使用している。耐熱、耐薬品用として布入りふっ素ゴムもある。 | |
布入りふっ素ゴム | ||||
ニトリルゴム | JIS B 2403相当品で、パッキン材料にニトリルゴムを使用している。耐熱、耐薬品用としてふっ素ゴムもある。 | |||
ふっ素ゴム |
リップパッキンの材料と作動油
パッキン材料の選定にはシール対象流体との適合性が重要です。 作動油との適合性を下表に示します。 鉱物性作動油は、一般的にはどのパッキン材料とも適合性に問題はありませんが、油性改良の目的で極圧添加剤などが入っている場合には、ゴム材料試験を実施してゴム物性への影響を確認する必要があります。
パッキン材料の使用可能作動油(旧JIS B 8354)
水素添加 NBR | ニトリルゴム | ウレタンゴム | ふっ素ゴム | |
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鉱物性 | ○ | ○ | ○ | ○ |
水-グリコール系 | ○ | ○ | △ | △ |
W/Oエマルジョン | ○ | ○ | △ | ○ |
O/Wエマルジョン | ○ | ○ | △ | ○ |
リン酸エステル系 | × | × | × | ○ |
脂肪酸エステル系 | △ | △ | △ | △ |
生分解性 | ○ | ○ | △ | △ |
MIL 相当油 | △ | △ | ○ | ○ |
パッキンの選定
選定の目安を下表に示します。 特殊な使用流体の場合、また使用条件内であっても、 ①最低作動圧力が常時3MPa以上かかる場合、 ②許容温度、圧力限界近傍で使用する場合 にはNOKへご相談下さい。
パッキン使用上の注意事項/相手材料、仕上げ方法
相手しゅう動材料は、特殊な場合を除いて旧JIS B 8354に規定されているものを使用してください。以下にパッキン相手しゅう動材と仕上げ方法について記載します。 従来は仕上げ粗さの大きさだけが論じられてきましたが、粗さの形態はさまざまです。大きさが推奨値に入っていても、ピークの鋭い波形では異常磨耗を発生させるケースがあります。 1994年に改定されたJIS 0601-1994「表面粗さの定義と表示」では、表面粗さの形態を定量的に表示する「負荷長さ率tp」が追加されておりますので参考として下さい。
相手材料および仕上げ方法
材料 | 仕上げ方法 | |
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シリンダチューブ | JIS G 3473 (シリンダチューブ用炭素鋼鉄管) | ホーニング仕上げ、またはバニシ仕上げ 0.4~3.2μmRz(0.1~0.8μmRa) |
JIS G 3445 (機械構造用炭素鋼鉄管) | ||
シリンダロッド | JIS G 4051 (機械構造用炭素鋼鉄材) | 熱処理研削後、硬質クロムめっき、バフ仕上げ 0.8~1.6μmRz(0.2~0.4μmRa) |
パッキン使用上の注意事項/めっき
油圧シリンダには硬質クロムめっきが多用されていますが、目的は防錆用、機械的強度向上等があげられます。 硬質クロムメッキ厚さはパッキンの種類により規定されるのでなく、使用環境、使用条件などにより定められるのが一般的です。JOHS-110「日本油空圧工業規格:製鉄機械(重機械)用油圧シリンダ」では硬質クロムめっきの厚さを作動油の種類で下表のように規定しています。
硬質クロムめっき厚さ(JOHS-110)
作動油の種類 | めっき厚さ(mm) | |
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チューブ内面 | ロッド表面 | |
水グライコール系作動油 | 0.02 | 0.02 |
一般鉱物性作動油 | ||
リン酸エステル系作動油 | ||
W/O作動油 | ||
O/W作動油 | 0.05 | 0.05 |
パッキン使用上の注意事項/「はみ出しすきま」と「軸受すきま」
パッキンの「はみ出しすきま」と「軸受すきま」はパッキンの性能と密接な関係にあります。「軸受すきま」については油圧機器の性能に影響が出ない範囲で可能な限り小さくする方が好ましく、「はみ出しすきま」については参考としてシール材料のはみだし限界線図を以下に示します。
バックアップリング
パッキンのはみ出しを防止するためには合成樹脂製のバックアップリングを併用するのが一般的です。バックアップリングの使用に際しては以下の内容にご注意下さい。 ① ポリアミド樹脂は、吸水・乾燥によって寸法が変化するので、装着製の観点から、大径のものは1ヶ所バイアスカットする必要があります。エンドレスの場合には、湿度の透過を抑えるために特殊包装に乾燥剤を同梱することで、吸水による寸法変化を防止します。 ② パッキン、バックアップリングともに加圧により変形を生じますが、その変形量・変形速 バックアップリング 度は、パッキン、バックアップリング各材料毎に異なります。パッキンとバックアップリングの変形速度に大きな隔たりがあるとバックアップリングがパッキンを保護するという所期の目的が達成できません。そこで軟質のパッキン用ゴム材料(ニトリルゴム、ふっ素ゴム)には軟質のバックアップリング用樹脂材料(PTFE)との組合せが望ましく、高圧域での使用に際してはPTFEと、より硬質なバックアップリング材料であるポリアミド樹脂の2枚を組み合わせて使用します。
パッキン使用例(Uパッキン)
代表的なUパッキンの装着溝寸法公差、仕上げ例を下図に示します。
パッキン使用例(組合せパッキン)
組合せパッキンの装着溝寸法公差、仕上げ例を下図に示します。