メカニカルシール
解説編
メカニカルシールの特徴
メカニカルシールは各種回転機械の軸封部に使用される代表的な密封装置で、以下の特徴があります。
- 漏洩量を極めて少なくできる。
- 動力損失が少なく、熱の発生が少ない。
- しゅう動材料の摩耗を少なく抑えることができ、寿命が長い。
- 高速、高圧高温あるいは極低温環境下でも使用できる。
- 固体粒子が混合した流体、腐食性のある流体、水、海水、各種薬液および液化ガスなどの潤滑性の劣る流体にも使用できる。
メカニカルシールの構造と用語
日本工業規格では「メカニカルシールの基本構造は、シール面の摩耗に従い、ばねなどによって軸方向に動くことができるシールリング、および動かないメイティングリングからなり、軸にほぼ垂直な相対的に回転するシール端面において流体の漏れを制限する働きを持つものとする」と定義されております。これに従うメカニカルシールの構造例を下図に示します。 また、メカニカルシールの用語を下表に示します。
メカニカルシールの用語
用語 | 定義 | 参考 | |
---|---|---|---|
慣用語 | 対応英語 | ||
シール | 液体の漏れを制限すること。 | 密封 | sealing |
シール端面 | メイティングリングとシールリング(またはその働きをする部品)とが互いに密接して擦れ合う面。 | 密封端面、 しゅう動面 | Sealing face Rubbing face |
メイティングリング | シール端面を持つ環で、シール端面が摩耗しても軸方向に動かないもの。 | インサート、 シートリング、 フローティングシート | mating ring |
シールリング | シール端面を持つ環で、シール端面の摩耗にしたがい、ばねなどによって軸方向に動くことができるもの。 | 従動リング | seal ring |
固定環 | シール端面を持つ環で、軸とともに回転しないもの。 | 固定リング | stationary ring |
回転環 | シール端面を持つ環で、軸とともに回転するもの。 | 回転リング | rotating ring |
二次シール | 固定環とケーシングもしくはカバープレート(エンドプレート、シールカバー)との間のシール、または回転環と軸もしくは軸スリーブとの間のシール。固定側二次シールと回転側二次シールとに分けられる。 | 固定側二次シールの場合 ・緩衝リング ・固定環パッキン 回転側二次シールの場合 ・軸パッキン | secondary seal |
メカニカルシールの使用条件範囲
メカニカルシールの使用条件範囲は回転機械の高性能化、高速化、大型化などにより、年々拡大し続けています。特に圧力、周速、スラリー濃度およびサイズにおいて推移が著しく、高圧化は、反応速度を高めるために高圧が必要な反応缶の攪拌機用シールや、高圧となるパイプラインポンプ用メカニカルシールなどへの適用によるものです。
高速化は、コンプレッサやタービンなどの高速ターボ機械用メカニカルシールにおいてしゅう動材の開発と低発熱設計の採用、冷却方式の改良などによりメカニカルシールの適用範囲が拡大された結果です。
高スラリー化は、ラバースプリング型の高濃度スラリー用シールが開発され、高濃度スラリーポンプやシールド工法用ポンプ、粉砕機などへの適用が可能となったためです。
サイズはしゅう動材などの製造技術の進歩と大型・分割シールの開発により、水車、排水用立軸斜流ポンプ、粉砕機および掘進機などのような大型回転機械の軸封部に適用されるようになったためです。右図に使用条件の推移を示します。
メカニカルシールの種類と分類・適用性
メカニカルシールの種類と分類を左図に示します。 また使用条件に対する適用性を下表に示します。
メカニカルシールの適用性
組立構造 | 二次 シール | 圧力範囲 | 組合せ | 取付け位置 | スプリング位置 | スプリング構造 | 組立構造 | 固定環 構造 | |||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
形式 |
Oリング形 |
Vパッキン形 |
ベローズ形 |
アンバランス形 |
バランス形 |
シングル形 |
ダブル形 |
タンデム形 |
インサイド形 |
アウトサイド形 |
回転形 |
静止形 |
マルチスプリング形 |
シングルスプリング形 |
単体形 |
カートリッジ形 |
クランプ形 |
プレスフィット形 |
フロート形 |
高圧条件 |
○ | ○ | × | × | ○ | × | ○ | ○ | ○ | × | - | - | ○ | × | - | - | × | ○ | × |
高速条件 |
○ | × | ○ | × | ○ | - | - | - | ○ | × | × | ○ | ○ | × | - | - | - | - | - |
作動追随性 |
○ | × | ○ | ○ | × | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | × | × | ○ |
しゅう動面の摩耗 |
- | - | - | × | ○ | × | ○ | ○ | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - |
高濃度の異物 |
○ | × | ○ | - | - | × | ○ | ○ | ○ | × | × | ○ | × | ○ | - | - | - | - | - |
高濃度の異物 |
○ | × | ○ | - | - | × | ○ | ○ | ○ | × | × | ○ | × | ○ | - | - | - | - | - |
高粘度の流体 |
- | - | - | - | - | × | ○ | ○ | - | - | × | ○ | × | ○ | - | - | - | - | - |
腐食性の流体 |
× | ○ | ○ | - | - | × | ○ | ○ | × | ○ | - | - | - | - | - | - | ○ | × | × |
取扱い組立性 |
× | × | ○ | - | - | ○ | × | × | - | - | - | - | - | - | × | ○ | - | - | - |
コスト |
○ | ○ | × | ○ | × | ○ | × | × | - | - | - | - | - | - | ○ | × | - | - | - |
- (注)
- ○:優れている、あるいは適している
- ×:劣っている、あるいは適さない
- -:優劣がない、あるいは影響しない
メカニカルシールの選定方法
メカニカルシールの選定に当たって、主要な使用条件は、液質、温度、圧力、周速などです。その他、固形物の有無、運転条件、機器の精度などもメカニカルシールの性能と寿命に大きな影響を与えます。
選定に必要な条件を下表に示しますが、NOKでは用途に合わせ、豊富なバリエーションを用意しておりますので、カタログを参照頂くか、最寄の営業所に御連絡下さい。
メカニカルシール選定に必要な条件
機器名称 | ||||
---|---|---|---|---|
軸位置 | 縦・横 | シール部 | 上・下 | |
ケーシングの割り方 | 縦・横 | シール部 | 1ヶ所,2ヶ所 | |
ジャケット | 有・無 | |||
液質 | 流体名 | |||
濃度 | % | pH | ||
比重 | at ℃ | |||
粘度 | at ℃ | |||
比熱 | ||||
沸点 | ||||
凝固点 | ||||
引火点 | ||||
固形分 | % | μ | ||
腐食性 | ||||
毒性 | ||||
流体温度 | 常用 ℃ 最高 ℃ | |||
圧力 | 吸入圧 | 常用 最高 | ||
箱内圧 | 常用 最高 | |||
吐出圧 | 常用 最高 | |||
蒸気圧 | at ℃ | |||
全揚程 | ||||
回転数 | ||||
回転方向 | 駆動側から見て右or左 | |||
運転頻度 | ||||
軸外径 | スリーブ外径 | |||
軸のガタ | 軸の伸び | |||
軸の振れ | 振動 | |||
材質 | 軸の振れ | 硬度 | ||
スリーブ | ||||
スタッフィング ボックス |
メカニカルシールの取付け機器精度について
メカニカルシールの密封性を安定させるためにはメカニカルシールが取り付く機器の精度が満足されることが必要です。軸振れ、同芯度、直角度、スラスト方向移動量の許容値、軸スリーブ、メカフランジの仕上げ精度と挿入部面取り、寸法精度を図に示します。
軸振れ許容値
軸とスタッフィングボックスの同芯度
軸とスタッフィングボックスの直角度
軸のスラスト方向許容移動量
取付け部仕上げ精度
メカニカルシールの据え付け上の注意事項について
取付け機器自体の精度が満足されていても機器の据え付け状態が悪いと軸振れや過大な振動が発生し、十分な性能を発揮できない場合があります。
注意事項
- 機器の基礎は振動を吸収できるように十分強固であること。また基礎にしっかりと固定されていること。
- カップリングの直結精度が満足されていること。
- 配管の重量や熱歪みによる荷重が機器に作用しないこと。
- ポンプは空気を吸いこまないように配慮されていること。
- ポンプは液質を考慮して、吸い込み配管の途中へのストレーナ設置の可否と設置する場合の目の粗さを考慮すること(目が細かすぎると詰まりが発生し、キャビテーションの原因となる場合がある)。