NOK×日刊工業新聞Journagram
技術コラム
technical column

NO.52023/6/19

シール技術をニーズに応じて適材適所へ ~自動車を支えるNOK~

NOKは日本で最初のオイルシールメーカーであり、自動車や建設機械、農業機械、電機など幅広い産業へ高い性能、品質の製品を提供している。オイルシールは、回転、往復といった運動を繰り返すエンジンやギアなどに使われる。油や液体、気体を外に漏らさず、かつ回転や往復の運動を滑らかに保つ役割を持つ。自動車をはじめとするユーザーにとって、脱炭素化が重要テーマとなり、オイルシールにも従来より高い性能を持つことが求められている。NOKは長年培ってきた技術力を駆使し、どのオイルシールにも最適な機能を持たせるべく、研究開発を進めている。

自動車用オイルシール 約8万種の材料 (注3)

NOKのオイルシールが最も採用されている分野が自動車だ。エンジンオイルの漏れを防ぐエンジンシールのほか、自動車の走行に不可欠な駆動系部品であるディファレンシャルギア(差動装置)、サスペンション(懸架装置)、タイヤホイールと車軸をつなぐハブベアリングなど数多くの部品にオイルシールが使われている。
オイルシールと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、リング状で素材(注1)はゴムというものだろう。だが、同じオイルシールでも、使う部品によっていろいろな形があり、多様なゴムが素材となる。NOKには約8万種のゴムの配合が登録されている。オイルシールの研究開発を担うNOK R&D材料技術部材料管理課の北島康朗課長によると「製品開発で検討対象となるゴムの候補は数千から数万種類に上る」という。それらから、求められる性能やコストなどの要素を基に最適なゴムを絞り込んでいく。

求められる性能とコストで材料を選定

どうやってオイルシールのゴムを決めていくのか。北島課長は「これまでの知見からベースのゴムをある程度決めて、そこから性能面で足りないところをどの原料(注2)で補うか、材料を加減する形で検討していく」と話す。ゴムの原料はポリマーがほとんどで、形や性能を出すためにシリカやカーボンなどの補強剤、加硫剤、老化防止剤、性能を補助する助剤を加える。つまり、ポリマーが主要な機能を担うため、まずはどんなポリマーを使うか決めることが重要だ。
ゴム材料は多くの種類がある。主に、熱がかかる場所なのか(耐熱性)、どの程度の回転、往復運動に耐える必要があるか(耐摩耗性)、変形など強い力がかかるか(機械強度)、日光や雨にさらされるか(耐候性)、低温環境でも機能を維持できるか(耐寒性)などの特性と、コストを検討材料にし、最もバランスの良いゴムを採用することになる。
例えば、高速回転するエンジンの回転軸に使うエンジンシールの場合、フッ素ゴム(FKM)を採用することが多い。FKMはエンジンの高温に耐え、エンジンオイルを封止しても変質しない。高価なことがFKMの弱点ながら、走行距離にして10万キロメートルにも耐えるエンジンシールにとっては最適な材料となる。

一方、ハブベアリングシールにはニトリルゴム(NBR)を最も使う。NBRはコスト面に優れ、かつ耐寒性と耐摩耗性のバランスがよい。しかし、耐熱性が弱点であり、100度℃以上の環境では利用できない。つまり、熱源の近くではダメで、土やほこりにさらされる場所には向く。ハブベアリングシールは土やほこりからベアリングを守ることが最も重要で「他の材料を使うとオーバースペックになる」(北島課長)。また、サスペンション部品を土やほこりから守る、ダストカバーはクロロプレンゴム(CR)がうってつけだ。CRも耐熱性は弱いものの、繰り返し力がかかっても形状が崩れないという追随性や、何度曲げても破損しない疲労屈曲性に優れる。

ニーズの高度化に対応 チューニングをよりシビアに

ただ、北島課長は「全ての性能を備えた万能材料はない」と話す。得意不得意とコストを鑑み、最適な材料を決めていく。違う材料をブレンドしたり、添加剤を変えたりして性能を高めるケースもあり、ブレンドを変えると他の性能面でどう影響が出るのか、試行錯誤することも多いという。こうした調整作業をチューニングと呼び、これまでは熟練の技術を必要としてきた。今後はより手軽にチューニングできるよう、NOKでは手順のデータベース化や、使いやすさの磨き上げを進めている。
また、チューニングはコストを考慮する必要がある。これまでの量産設備をそのまま活用できることが重要で、この制約が作業を難しくしている。さらに、ユーザーからは燃費性能への貢献が求められ、オイルシールには回転、往復運動を妨げない低摩擦への要求が強い。自主的に先を見据えた研究開発も進めることも求められ、担当スタッフにとってやりがいのあるテーマが増えているようだ。

(注1) 素材:ゴム、プラスチック、金属、等の分類のうちの一つのゴムという意味合い
(注2) 原料:ゴムを構成するものをいう
(注3) 材料:「原料」を組み合わせた状態をいう

北島 康朗

NOK株式会社 NOK R&D材料技術部 材料管理課長

NOK入社後、主に分析業務を担当。2000年に材料技術部に異動後、接着剤、表面処理剤の開発に携わる。2011年にオイルシール事業部製造技術部に異動後、材料や接着剤の不適合改善、立ち上げ支援に従事。2017年に再度材料技術部に異動、2019年より現在の業務に携わる。

※記事内のデータ、所属・役職等は2023年6月現在です。