NOK×日刊工業新聞Journagram
技術コラム
technical column

NO.62023/6/19

先進技術にも適材適所の製品を提供するNOK ~自動車の電動化に対応~

NOKの最大顧客である自動車業界は、100年に1度と言われる変革期にある。CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)といった先進技術の普及や、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)といった地球規模のテーマへの対応が自動車業界に求められており、NOKもそれらテーマに応える適材適所の製品開発を進め、急激な変化の中でも生き残りを図ることが必要になっている。

eモビリティに最適な製品を開発

NOKが得意とするオイルシールは、エンジン回りに多く採用されている。今後、欧米や中国でエンジン車の販売が禁止され、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)などのeモビリティに置き換わることが確実視されており、eモビリティに対応した製品の開発がNOKにとっての大きな課題だ。
NOKの研究開発拠点である湘南R&Dセンターでは、eモビリティ向け製品の研究開発を進めている。NОK R&D材料技術部材料開発二課の鈴木昭寛課長によると、eモビリティはエンジン車と違い電気でモーターを回して走行するため「バッテリー、モーター、駆動変換ユニットなどの部品が増える」。また、エンジン関連のオイルシールは耐熱性や耐油性が必要だった半面、eモビリティでは「水やほこりに対する性能が求められる」(鈴木課長)という。さらに、eモビリティは電子制御ユニット(ECU)などの電気回路の搭載が増えるため、接点不良につながる低分子シロキサンなどのシリコン素材を使うことができず、「耐水性に優れたエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)を材料に使うことが有効」(同)であり、実際にECUカバーに使うガスケット(固定材に使うシール)には採用が進んでいるという。

新たな特性への対応に知見を生かす

オイルシール技術の応用範囲として、現在研究開発を進めている製品の一つがリチウムイオン電池(LiB)の電解液に使うシールだ。同シールには、電解液の性能を落とさず、かつ電極を腐食させないという特性が求められる。EPDMを使うことが得策であるものの、「シール表面が荒れる現象(面荒れ)を防ぐことが必要」(同)なため、EPDMを配合技術により改善した「eモビリティEPDM」の製品化を目指す。
また、eモビリティは狭いスペースに多くの電気回路を搭載する。省スペースのため、シール材に電気回路の熱を逃がす性能を加えてほしいという要望があると想定できる。CASEに不可欠な通信機器やセンサー類も多く搭載されるようになるため、鈴木課長は「通信環境を安定させるため、特定の周波数を遮断する導電性を持たせる」ことが重要になると説く。電磁波は導電性を持たせることで、遮断(シールド)することができるためだ。導電性は充填剤によって与えられ、充填剤を含め、検討が必要な材料の数はエンジン車より増えているという。
新分野開拓というテーマでは、自動車以外の分野でも研究開発が進む。家庭でも使うエアコンの冷媒や冷凍機油をシールするOリングが一例だ。
このOリングは、マイナス40度Cから120度Cと熱変動が大きな対象をシールする。冷媒は液体と気体の状態変化により熱を運ぶ役割がある。冷媒のシールでは、ゴム内での発泡を抑えることも求められる。なぜかというと、ゴムの中に溶けた冷媒が急な加熱で気体に変化するためだ。体積が急激に増えるとゴムを傷めることになる。水素添加ニトリルゴム(HNBR)に低温での耐性を加えた低温HNBRが材料となるが、今後の冷媒の変化に応じて新材料の開発が必要となっている。現在は、オゾン層破壊や地球温暖化の原因となる温室効果ガスの少ない、R32などの代替フロンが使われている。だが今後、さらに環境負荷の少ない自然冷媒が使われることが予想される。NOKでも二酸化炭素(CO2)冷媒に対応したシール材の研究開発を急ぐ。
さらに、水道向けも確実な製品を提供する努力を続ける。塩素への耐性や、給湯器は耐熱性が必須で、それに長寿命対応の要求が増えているという。

将来のためにeモビリティ製品を開発

鈴木課長が所属する材料開発二課は、2020年よりeモビリティ関連の研究開発に取り組んでいる。一課が従来のエンジン車向けと、EVでも使用される駆動系のオイルシールを主に手がける。二課は若手が中心で、10人ほどで研究開発を続けている。鈴木課長は、ライフサイクルアセスメント(LCA)に対応した、環境にやさしいとされるバイオマスなど各種材料のニーズが高まり「難しい要求が多く、テーマ自体も増えている」と言う。オイルシールは、長く研究開発を続けている中で新しい機能を出すことも困難になってきた。だが「新しい技術を積極的に取り入れて、現場と連携して製品開発を続けたい」(鈴木課長)と意欲的だ。

鈴木 昭寛

NOK株式会社 NОK R&D材料技術部 材料開発二課長

NOK入社後、分析業務や表面処理技術開発を担当。2014年より防振ゴムの材料開発に携わり、2016年からセルシール材料、新商品材料開発に従事。2023年より主にeモビリティ向け材料や環境貢献材料開発を担当する材料開発二課の課長となる。

※記事内のデータ、所属・役職等は2023年6月現在です。