NOK×日刊工業新聞Journagram
技術コラム
technical column
技術コラム technical column
NO.122024/10/08
ゴムの技術で水素社会を実現へ
水素利活用の促進が叫ばれている。カーボンニュートラル(温室効果ガス〈GHG〉排出実質ゼロ)の実現が世界の産業全体の命題となる中、二酸化炭素(CO2)を生まないエネルギー源として水素やアンモニアが注目されている。アンモニアも水素を使うことから、次世代エネルギーとしての水素への期待は特に大きい。
幅広い技術とノウハウを生かす
NOKは主力のオイルシールやOリングなどのシール製品で培った材料、設計、製造などの幅広い技術やノウハウを持つ。それらを生かして水素社会にも貢献していく。
NOKが持つ水素関連製品を見ると、自動車や家庭で使う燃料電池(FC)用のガスケット「セルシール」のほか、耐水素用Oリング、FC内で発生した水蒸気を排気ガスから回収して吸気ガスを加湿する加湿膜、水素ガスの圧力を調整する水素制御ソレノイドバルブなどがある。また、水から水素をつくる水電解装置向けのガスケットなどもラインアップし、水素を「つくる」「ためる」「はこぶ」「つかう」というインフラ全体に必要不可欠な製品を提供している。
FCの高度化に対応 セルシール
そうした製品の中で、特にNOKの技術と知見が生きたものがセルシールだ。セルシールはFCを構成するセルの内部に使う。セルは金属やカーボン配合樹脂製板材のセパレーターで触媒層を挟んだ構造。それを300ほど重ねたものがFCとなる。セル内部は水素、酸素、水が通り、漏れ出さないようにガスケットで封止する。気体の漏れは危険もあり許されない。ガスケットは重要な部品だ。
FCは高出力や発電効率アップが求められ、セルの小型化、多層化が進む。ガスケットも小型化が必要であり、組み付ける際の位置精度も厳しい水準となる。
NOKは長年培った技術と知見をフル活用し、セパレーターとガスケットを一体で成形する技術を確立した。一体成形により、マイクロメートル(マイクロは100万分の1)単位の位置精度と形状精度を持つことができた。FCメーカーが300のセルを一度に圧力をかけて組み付ける際、ガスケットの形状や位置がずれていると力のかかり具合が均等にならず、すき間ができて期待されるFCの性能を発揮できない。さらに一体成形は製造の工程削減やコスト抑制にもなる。今後はより多層化、微細化が進むと見られ、一体成形はFCに欠かせない技術となる。
セルシールの開発に携わったNOKグループR&D FC Solution先行開発部の松田泰輔氏はセルシール製造の難しさについて「一体成形には射出成形機を使う。セルシールのゴム素材は液状または固形の材料。特に固形材は金型内を流しにくい」と説く。そして「微細な流路の中をムラなく流す設計や温度、圧力管理などの技術がNOKにはある」と強みを話す。材料についても難しさがあり「自動車用FCを例にすれば、商用車向けは耐久性を強く求められる。乗用車では寒冷地向けに耐低温の性能の方が必要となるなど、用途によって求められる機能が違う。当然ゴム素材の材料配合がニーズによって変わってくる」(松田氏)という。それについてもNOKは「必要な機能とコストに見合った素材選定と量産の技術を持っている」と胸を張る。
培った技術を他製品に応用
自動車用FCは、乗用車より先に商用車での普及が予測されている。商用車は乗用車より高い耐久性(長寿命)が必要だ。そのためFCの普及には構成する部品の長寿命対応が必要となり、それに対応するためにセパレーターのニーズも変化する可能性高い。NOKは「どんな材料のセパレーターがきても一体化できる技術の磨き上げを進める」と意気込む。求められるさまざまな特性、性能に応える技術を確立して、他社に先行したい考えだ。また、セルシールで確立した技術は、NOKの他の製品にも応用していきたいという。
松田 泰輔
NOK株式会社 NOK グループR&D FC Solution先行開発部 開発課
NOK入社後、技術研究部門で燃料電池用セルシールの技術支援を担当。2018年よりセルシールの開発に従事し、現在はカーボンセパレーター上へのガスケット成形技術開発に携わる。
※記事内のデータ、所属・役職等は2024年9月現在です。